旅ネタ


旅先での燃ゆる思いを綴ってみました。
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ガーナの旅ネタ

そういうわけでは、断じて

「よっぽど旅が好きなんですねぇ」と言われることがよくある。
三年以上もこんなことを続けているのだから、そう思われて当然なのだが、
もともと旅好きでもなんでもないのに無理矢理付き合わされている旦那はともかく、
もともと旅好きの私ですら、
はっきり言って、飽き飽きである。
日本に帰りたいとさえ思う。

そう、私(達)は、大食い王決定戦に出場中の大食い選手だ。
しかしすでに優勝圏内からは脱落している。
それでも私(達)は、妙な義務感とフェアプレー精神で、黙々と寿司を食べ続けている。
55皿目のエンガワに手を出す。まだ次がある。その次もある。
私(達)は本来、寿司が大好きだ。大の大の大好物だ。
寿司のない世の中など考えられないほどに寿司を愛している。
だけど今、この瞬間は、胃から酢飯とエンガワが逆流して出てきそうなのだ。
「よっぽど寿司が好きなんですねぇ」
うーんとね、半分は正解、でも大きな間違い。

だいたい旅なんてのは、日常の生活を離れるから楽しいんであって、
だいたい寿司なんてのは、そうしょっちゅう食べないから美味しいんであって、
あの酢飯のかほりが鼻腔をつつくのであって、
毎朝、毎晩、寿司ばかり食べていたら、インスタントラーメンだって恋しくなるのだ。
同じことを繰り返していた、退屈だと感じていたあの日々が、恋しくなるのだ。

今の私(達)にとっては、たまの一時帰国がなによりの喜びであり、
成田空港に降り立ち、京成線の車内で久しぶりに「日本語」の放送を耳にした時の、
あの痺れるような感覚。涙が出るほどの安堵感。
あっちの方が、よっぽど旅で、よっぽど寿司だ。


突然こんなことを書くのは、ガーナで寿司を食べ逃したせいでは断じてない。
西アフリカで唯一まともな寿司を出すという“韓国”料理屋に、行きそびれたからではない。

実際、ガーナの“食”は、他の西アフリカ諸国のものに比べたらかなり豊かな方で、
主食としての選択肢だけでも、白いご飯、味のついた焼き飯、スパゲティ、
茹で上げたヤム芋を練ったフーフー(ふやかした餅のような食感がイケる)、
キャッサバを蒸らしたキンキーなど、バリエーションに富んでいる。
具のほうもオールスター勢ぞろいだ。
チキン、ビーフ、ポーク、魚という顔ぶれから好きな具を選んで主食の上に乗せ、
それに、トマトのベースに唐辛子がたっぷり入った、真っ赤なソースをかけて頂く。
ま、まぁ、ソースに関して言えばこれ一種類しかないのだが、
「ソースが一緒だと主食と具をどう選んでも結果的に同じ味じゃん」
「しかも激辛だし」
「舌も唇もヒリヒリして食欲どころの騒ぎじゃないな」
「今日なんか朝から胃が痛いんだけど」
などと下等な文句は決して言わない。言うはずがない。
だって実際、ガーナの“食”は、他の西アフリカ諸国に比べたらかなりマシなのだ。これ本当。
だから断じて食べ飽きたりはしない。
毎日がドキドキの連続だ。これが旅だ。

確かに、ギニアで行った中華料理店のメニューに「SUSHI」の文字を発見した時は、
飛び上がってガッツポーズを決めたいくらい心が躍ったが、
店内に飾られた「SUSHI」写真の具がカッパとカニカマだけだったことに深く傷つき、
ヘイヘーイ、小姐、こんなインチキは断じて注文せぬぞ。
「そういえばガーナのアクラに本物の刺身と寿司を出す韓国料理店があるらしいよ」
「おいおい、さすがだな韓国人は」
「てことは、そこまで行けばハンガリーで行った回転寿司以来の生魚が食べれるんじゃない」
「つっても所詮ここはアフリカだ、あんまり期待しないでおくべ」
「んだナんだナ」とか言いつつも、
内心では半年振りの酢飯のかほりをリアルに想像して、弥が上にも期待は高まり、
ギニアからマリ、マリからブルキナファソと、妄想の中の寿司と戦い、
アクラに着いてからもわざわざ滞在の最終日までもったいぶって、朝から絶食までして、
お腹ぺこりんぺこりん状態で韓国料理店「ソウルなんとか」の門を叩いた、午後3時20分。
中からきちんとした身なりのボーイ(もちろん黒人)が出てきて、
「お客様、当店のランチの営業時間は午後3時まででございます。
ディナーは夕方5時30分から承っております」と、らしからぬ低姿勢で言うので、
「んじゃま、夜まで楽しみに待ちましょか」
「にしてもあまりに腹を減らしすぎたな」
「軽く腹ごしらえでもするっぺ」
「いやほんとに軽ぅくね、軽ぅくよ」と近くの飯屋に入り、
一皿だけ注文した焼き飯&チキンセット(あと例によってあのソース)の量があまりに多く、
二人で分け合ってるのに二人とも満腹になるほど多く、
しかもすきっ腹に激辛ソースが沁みるのなんので、胃痛・胃もたれ・胃痙攣を併発、
夜中まで食事どころの騒ぎじゃなくて、結局は半年振りの寿司を食べ損ねたくらいでは、
全く、断じて、フンとも思わない。

だいたい寿司は飽きた。もう三年も寿司ばかり食べている。
56皿目はギニア、57皿目は中トロ、58皿目はブルキナファソだった。そろそろギブアップだ。
私(達)は本来、旅が大好きだ。寿司も大好きだ。大の大の大好きだ。
旅の出来ない世の中など考えられないほどに寿司を愛している。
だがしかし、旅なんてのは、そうしょっちゅう食べないから美味しいんであって、
あの酢飯のかほりが鼻腔をつつくのであって、
こんなに毎日、旅ばかり食べていたら、
もともと寿司好きの私ですら、
はっきり言って、飽き飽きである。
日本に帰りたいとさえ思う。