旅先での燃ゆる思いを綴ってみました。
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高校時代の友人に、フランチェスカというのがいる。ばりばりの日本人だ。
彼女は一家代々のクリスチャンで、洗礼時にそのフランチェスカという名を受けたのだそうだ。
ただ、日本国に生きる者としては当然、普段は戸籍上の日本名を名乗っているので、
彼女が実は「フランチェスカ」だということは、
本人自らがそう告げない限り、誰にもわからない。
同じように、イスラム教にもムスリムネームというのがあり、
イスラム史上の偉人達になぞらえ、信徒それぞれが名を受ける。
イスラムの国に生まれたイスラム教徒は、そのほぼ全員が生まれながらにムスリムなので、
(そして、死ぬまで他教に改宗することはできない。それがイスラムの掟だ。)
生まれた時にムスリムネームそのものを正式な名としてを授かり、
それが戸籍にも免許証にも載る。
無論、親や友人からもその名で呼ばれることになる。
例えば、あの悪名高き将軍の「フセイン」も、
あの世界的テロリストの名「ウサマ」も、
あの偉大なパンチドランカーの「アリ」も、
全て、イスラムの偉人からとったムスリムネームだ。
当然、エジプトにも(イスラム諸国全体に)沢山のフセインがいて、ウサマがいて、
アリなんかうじょうじょいる。
その他「アハマド」「アブドラ」「ムスタファ」「ハッサン」などが、一般的なムスリムネームだ。
そんなムスリムネームの中でも、際立ってありがたいのが「ムハンマド」。
言わずもがな、唯一神アラーの啓示を受けイスラム教を創始した、
預言者ムハンマドその人の名である。
んでもって、自分の息子にこのありがたきムハンマドの名を付ける親の多いこと、多いこと。
イスラム世界はもう、びっくりするくらい、そこいら中ムハンマドだらけなのだ。
特にエジプトにおけるムハンマドの生息数は、他の国に比べても群を抜いている。
統計を調べたわけじゃないから正確には分からないが、
エジプトの学校で男子クラスに潜入したら、40人中17人はムハンマド確定だろう。
つまり、5人に2人以上はムハンマドってことになる。
これだけ同じ名前がいると、名前そのものの存在意義さえ怪しくなってくるが、
預言者の御功名をもってすれば、そんな些細なことはどうでもいいようだ。
そういうわけだから、
ひとつの食堂にムハンマドという従業員が3人いることなんか、珍しくもなんともない。
あまりにもあちらこちらで、
「ハンメッ!ハンメッ!」(←エジプト人がムハンマドと発音するとこう聞こえる。)
という呼び声がするので、
ある人は、この「ハンメッ!」が、
日本語でいうところの「ちょっと!」とか「おーい!」のような掛け声だと思い込み、
誰彼かまわず、用がある度に「ハンメッ!ハンメッ!」を連呼して、
ある日「俺はムハンマドじゃねぇぞ」と、アブドラさんに叱られた。
別の人は、カイロのタハリール広場で「ハンメッ!」と叫ぶのが夢だと語った。
エジプトの中心でハンメッと叫ぶと、いったい何人が振り返るのか、
想像しただけでわくわくだ。
そういう私も、部屋でこっそりカメハメハ大王の替え歌を唄っては、よくひとりで吹き出した。
アラブの国に住む人は〜 誰でも名前がムハンマド〜
覚えやすいがややこしい ムハムハムハンマド〜 ぷぷぷ
世界中のムハンマドさん、ごめんなさい。悪意はないんです。
さて、ダハブの海沿いにある、日本人御用達レストラン「ブッダ」の番頭であり、
私達にとって良いおしゃべり相手でもあるムハンマド(お前もか!)の本名を聞き、
さらに驚いた。
ムハンマド ムハンマド ユセフ ムハンマド ヘブラヒム セリム
一節目のムハンマドは、我らが友・ムハンマド本人の名、
最終節のセリムは姓、つまり一族の氏。
では、二節目のムハンマドは何かというと、父親の名なのだそうだ。
そして、三節目のユセフはお爺さんの名で、その次のムハンマドは曾爺さんの名、
ヘブラヒムはそのまたお爺さんの名。
ということは、お察しの通り、本来ならその先にも延々と先祖の名が続くわけだが、
「その先は覚えてない」んだそうだ。まあ、無理もないよな。
このように、セリム一族の家系をたどっただけでも、
たった五代のうちに三人ものムハンマドがいることがわかる。
前に「40人中17人はムハンマド確定」と書いたのが、
あながち大袈裟でもないことが、分かっていただけただろうか。
ちなみに、同じくムスリムネームの中に「マハムード」というのがあるが、
これは「ムハンマド」の発音がうんぬん、ではなく、れっきとした別名だ。
ムハンマドを英語で書くと Mohammed
マハムードを英語で書くと Mohamoud
混同しやすいので注意が必要だ。
この「マハムード」もまた、人気のムスリムネームで、
ムハンマドとマハムードを合計したら、40人中25人は当選確実だろう。
ひとつのクラスに「タケシ」または「タカシ」が25人もいるようなもんだ。
さらには、そのムハンマドやマハムードがそれぞれに、
ブッダレストランのムハンマドと同様、祖先名を持つわけで。
タケシ タカシ タカシ タケシ タケシ 木村
タカシ タケシ タカシ タケシ タカシ 深川
ますますややこしい。