旅先での燃ゆる思いを綴ってみました。
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ボツワナで、ある日のこと。
炎天下、遅れに遅れたバスの到着を待っている間に、喉が渇いてきたので、
近くに構えていた屋台に飛び込み、コーラを一瓶買った。
東洋人が珍しいのか、遠巻き、近巻きに私達を囲むギャラリーの視線の中、
まずは旦那がグビグビ、次に私がゴクゴクやると、
周囲から、謎のざわめきが起きた。
不思議に思って顔を上げると、今さっきコーラを売ってくれた店番のおばちゃんが、
ざわめきの理由を説明するかのような、感嘆の叫びをあげた。
「Woh〜! You love each other!」
あんた達、愛し合ってる仲なのねぇ。
なんだかよくわからないが、ボツワナでは、回し飲みは愛の行為らしい。
この歳になって、しかも夫との間接キスを騒がれるとは思ってもみなかったが、
「ま、まぁ・・・・・・夫婦ですから」
と当たり障りなく答えると、ギャラリー達も納得したようだった。
夫婦だとわかれば、次に飛んでくる質問は決まっている。
「子供は?」
この質問をされるのは、あまり好きではない。
私達くらいの年齢で、ちゃんと結婚もしてるのに、あえて子供を作らないという考え方を、
発展途上と呼ばれる国の人々は、まず理解してくれない。
「なぜだ、なぜ子供を作らない?」なんて聞かれても、説明が面倒だ。
「ああ、まだ若いから、そのうちね、そのうち〜」
早く話題が終わることを願いながら、そう適当に答えると、更なる定番質問が飛んでくる。
「歳はいくつ?」
この質問をされるのも、あまり好きではない。
本当のことを答えれば、やっぱりまた「なぜだ、なぜ子供を作らない?」の振出しに戻るし、
かといってサバを読めば、
「そんなに若いのに海外旅行だなんて、日本は金持ちでうらやましい」とか、
「僕らなんかどんなに必死に働いても、隣の国に行くのすら大変なんだぞ」とか、
あまりよろしくない方向に話が進んでしまうからである。
早く話題が終わることを願いながら、本当の年齢を答えると、
ギャラリー達は一様に鳩が豆をくらったような顔をし、そのうち一人が言った。
「You are old enough!」
おまえはもう充分に老いている。
アフリカ人にデリカシーを求めても仕方ないのはわかってる。わかってるけど、 それにしたって、
初対面の女性にいきなり年齢を聞いといて、「You are old enough!」はないだろうよ。
それにイナフなほど老いてないし私。
ったく、失礼しちゃうわね!
バスターミナルとして使われている町の広場に、午後の太陽が燦々と照りつけ、
枝をめいっぱい広げた常緑樹の木陰には、大勢のバス待ち客が休んでいる。
空き瓶を返すと、私達は少し冷ややかな気持ちで屋台を後にし、再び木陰に陣取り、
これから起こる、壮絶な座席争奪戦について、二人で作戦を練り始めた。
そうこうしているうちに、愛のことも、老いのことも、すっかり忘れてしまった。